コンビニエンスストアのアルバイトが終わる深夜。人通りの少なくなった夜の街にバイクを走らせ、向かう先は大抵レンタルビデオショップだった。
学生時代の僕は、映画の日には学校に行かず、映画館をはしごする中途半端な映画好きであった。そんな僕が通いつめたレンタルビデオショップには、名作と名高い旧作がズラッと並べられていて。好奇心と時間と行き場のないエネルギーだけはいっぱい持っていた、まだ若い自分にとっては最高の場所であった。
それから随分と時間が経って、観る映画やコンテンツも変化してきた。そして気がつけば、若い僕が好きだった、街のレンタルビデオショップがどんどん潰れている。
世界の端っこから眺めていた恋人
これといって夢や、やりたいこともなかった若いころの僕は、とにかく時間だけは沢山持っていた。とりあえず友人と麻雀をして、それでも空いている時間は、暇という焦燥感を埋めるため、呼吸をするように淡々と映画を観ていった。ベタベタの恋愛映画も、派手なアクション物も好きだったし、キネマ旬報などで取り上げられる玄人好みで難解な作品にも手を出していた。
好きな女優は、ナスターシャ・キンスキーだった。ちょっと長い映画だったけれども「テス」や「マリアの恋人」なんかが良かった。世の中には、きれいな女の人が沢山いることを知ることができたし、自分は世界の端っこからそれを眺めているだけだということも、いやというほど思い知ったのがこの頃だったと思う。
映画「アウトサイダー」のダイアン・レーンも良かった。とにかくレンタルビデオ店は、学校よりも頻繁に通っていた。(笑)
レンタルビデオ店がつぶれる理由
僕の映画好きは、基本的には変わっていない。劇場で見たいという作品は、封切りしてしばらくのうちに観に行くし、うっかり見逃してしまった作品も時間をつくって楽しむようにしている。しかし以前のようにレンタルビデオショップに通うということはなくなった、なぜだろうか。
僕だけではなく、多分こんな理由で行かない人が増えてきたのではないかと思う。これがレンタルビデオ店がつぶれる理由になっているのだろう。
レンタルビデオ店ももちろん事業として展開しているわけだから、在庫である映画コンテンツの回転率は重視せざるを得ない。月に一回レンタルされるかどうかの古いB級映画を棚に並べるよりも、例えば「ローマの休日」のように繰り返し何度もみられ、回転率もそこそこ稼げる不朽の名作を在庫するだろう。
しかし、これがレンタルビデオ業界をつまらなくしてしまった。どこに行っても、置いてある作品は判で押したように同じものばかり。それでは、わざわざ出かけて行ってまで体験したい、未知の作品との出会いがほとんどなくなってしまったのだ。
レンタルビデオの新業態、動画配信サービス
もうひとつ、映画を楽しむ人達にとって大きな転換点となっている存在が、動画配信サービス。これは、月額1,000円程度の基本料金で何本でも映画やテレビドラマが楽しめるサービスで。インターネット回線を利用して動画をダウンロード、パソコン・iPadなどのタブレット端末・iPhone・テレビでも試聴することが出来る。
なにより出掛けることなく、好きな時間に映画を楽しむことが出来る点があるようでなかったサービス。代表的なところでは、業界最大手のHuluが有名だ。
基本的には、レンタルビデオとなんら変わることのないサービスである。事業者は映画やテレビドラマなどのコンテンツを放映する権利を買って、それをお客様にダウンロードして楽しんでもらう。DVDだとかビデオテープというモノを介在しなくなった代わりにデジタルデータを貸すイメージだ。
モノが介在しないので使っても傷がつかないし、コンテンツを増やしても在庫の場所を取らないのでマニアックな作品にも手を出すことが出来る。また、返却を滞納されて回転率が下がることもないし、デジタルデータなので人気作品であってもいくらでも貸し出すことが出来る。そしてこれはユーザーにとっても大きなメリットが、貸出中の空のパッケージを眺める無念さから解放されることに繋がる。
体験を楽しむ映画館
やはり、映画館で映画を観るという体験はやはり代えがたい魅力があるといえる。
上映時間よりも早く着いてしまい、映画館周辺の店をぶらぶら眺めたり、近くのカフェなんかで時間を潰すのも贅沢な時間だ。
切符をもぎってもらい、売店で飲み物を買ったら、分厚く重い映画館の扉を肩で押すように開け、入っていく。そこには、自分と同じ作品を観ようとする同好の士が、やはり同じように映画が始まる興奮を抑えながら、しかしそれを気取られないように静かに座っている。
身体が沈み込む、なんとも言えない感触の椅子に座って、非日常的な大音量・大画面で繰り広げられるストーリー。やはり映画館は映画という作品自体を楽しむ最高のツールであることは間違いがない。
作品に親しむダウンロード視聴
一方で、Huluに代表される動画配信サービスは、作品そのものを楽しむことは映画館に劣るとしても、出演者・監督の過去の作品や、同じテーマを扱った別の作品を楽しむことに優れている。
僕は以前、「スパイダーマン」という映画を観て、ヒロインであるキルスティン・ダンストに魅入ってしまった。そこで、彼女の出演作品である「チアーズ」「エリザベス・タウン」などを片っ端から観まくった経験がある。
名前を手がかりに出演作品を調べれば、すぐにヒットする。もっと見ていたい女優の出演作品は、その日のうちにダウンロードして観ることが出来るのだ。こういう映画の楽しみ方は動画配信サービスと非常に親和性が高い。
ネット通販のアマゾンでは「これを買った人は、他にこんな商品も買っています」というお節介なお薦め機能が付いているが、あれと同じだ。ちなみに僕は、よくそのお薦めを買ってしまう。(笑)
映画の日よりも安く、しかも見放題
僕のよく行く映画館TOHOシネマズは、毎月14日が1,100円で一本、映画をみれる。12月1日の映画の日ならば1,000円だ。
困ったことにHuluだと、933円支払えば1ヶ月どんな映画でも見放題だ。
三日に一本の映画を観る人であれば、一本あたりは93円。
一週間に一本だとしても、207円で映画を楽しむ事ができる。
動画配信の事業者は、駅前の一等地に映画館をいくつも建設する必要がなく。その分の経費を配信する動画コンテンツの充実にひたすら費やすことが出来るのだ。
映画よりも自由な動画配信
僕も、昔ほど時間が多くなくなった。正確に言えば、一日の時間は今も昔も同じであるけれども、家庭を持って「自分だけの時間」というものが激減してしまった。今では天然記念物並みに大変貴重なものだ。
多くの場合、その時間は深夜に訪れる。家人が寝静まったひと時が私の至福の時間だ。しかし、大人の自由時間だからといって夜な夜なレイトショーに出かけて行くのは、一家の主を任されるものとして甚だ都合が悪い。いや正直に言うと、後になって何を言われるのか分からないので、そんな行動に出る勇気もなくなっている。
しかし、動画配信であれば自室のパソコンの前にいることができるので、気兼ねをする必要がない。少し画面は小さく、イヤフォンを使用しなくてはいけないが、それでも好きな映画の世界にどっぷりと浸ることが出来る。自宅にいながら、つかの間、世界を旅する旅行者のような自由で贅沢な時間なのだ。
気になるまとめ
何度か紹介しているHuluは、日本テレビの系列に属するようになった。海外の映画・ドラマだけではなく、日本のアニメやテレビドラマもコンテンツとしてどんどんアップされていくのが楽しい。
これから観たい作品としては、クリント・イーストウッドの出演・監督作品はもう一度、全作品を見直したいと思っている。他に上質な恋愛映画も観てみたいので、もしお薦めの作品があったら教えていただけると大変嬉しく思う。